葛飾北斎かつしかほくさいの『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』は、江戸えどの町まち、街道かいどう、海うみや川かわ、農村のうそん、人々ひとびとの仕事しごとや旅たびの風景ふうけいの中なかに、さまざまな姿すがたの富士山ふじさんを描えがいた錦絵にしきえのシリーズです。北斎ほくさいが70代だいに手てがけた代表作だいひょうさくで、題名だいめいは「三十六景さんじゅうろっけい」ですが、最初さいしょの36図ずの後あとに10図ずが加くわわり、現在げんざいは全ぜん46図ずのシリーズとして知しられています。

『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』全ぜん46図ずを、作品名さくひんめいの読よみ方かた、描えがかれた場所ばしょの目安めやす、絵えを見みるときのポイントとともに紹介しょうかいします。作品名さくひんめいは美術館びじゅつかん・文化財ぶんかざいデータベースで広ひろく使つかわれる表記ひょうきを基本きほんとし、「不二ふじ」は作品名さくひんめいに残のこされた表記ひょうきとして「富士ふじ」に直なおさず掲載けいさいしています。

『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』とは

『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』は、富士ふじを単独たんどくで描えがくだけのシリーズではありません。大波おおなみの向むこうに小ちいさく見みえる富士ふじ、屋根やねや橋はしの間あいだからのぞく富士ふじ、旅人たびびとや職人しょくにんが働はたらく向むこうに見みえる富士ふじなど、富士ふじと人々ひとびとの暮くらしを一ひとつの画面がめんに組くみ合あわせたところに大おおきな特徴とくちょうがあります。

最初さいしょに刊行かんこうされた36図ずの後あとに10図ずが追加ついかされ、この追加ついか10図ずは一般いっぱんに「裏富士うらふじ」と呼よばれます。ただし、ここでいう「裏富士うらふじ」はシリーズを区分くぶんするための通称つうしょうで、単純たんじゅんに「山梨県側やまなしけんがわから見みた富士ふじ」という意味いみだけではありません。また、摺すりの時期じきや所蔵品しょぞうひんによって色合いろあいが異ことなる作品さくひんもあります。

作品名さくひんめいの表記ひょうきについて

シリーズ名めいは原題げんだいに従したがって「冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい」と表記ひょうきします。「富嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい」「富岳三十六景ふがくさんじゅうろっけい」も検索けんさくなどでは広ひろく使つかわれています。各作品名かくさくひんめいは読よみやすさを優先ゆうせんして現在一般的げんざいいっぱんてきな字体じたいを用もちいる一方いっぽう、「不二ふじ」のように題名だいめいとして意味いみのある表記ひょうきは残のこしています。「東都浅草本願寺とうとあさくさほんがんじ」の「浅艸あさくさ」、「青山円座松あおやまえんざまつ」の「圓座枩えんざまつ」など、原版げんぱんや所蔵館しょぞうかんによって旧字きゅうじ・異体字いたいじを用もちいる例れいがあります。

『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』全ぜん46図ず一覧いちらん

  1. 江戸日本橋(えどにほんばし)
  2. 江都駿河町三井見世略図(えどするがちょうみついみせりゃくず)
  3. 東都駿台(とうとするがだい)
  4. 東都浅草本願寺(とうとあさくさほんがんじ)
  5. 本所立川(ほんじょたてかわ)
  6. 深川万年橋下(ふかがわまんねんばしした)
  7. 五百らかん寺さざゐどう(ごひゃくらかんじさざいどう)
  8. 青山円座松(あおやまえんざまつ)
  9. 隠田の水車(おんでんのすいしゃ)
  10. 下目黒(しもめぐろ)
  11. 礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)
  12. 御厩川岸より両国橋夕陽見(おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ)
  13. 隅田川関屋の里(すみだがわせきやのさと)
  14. 武州千住(ぶしゅうせんじゅ)
  15. 従千住花街眺望ノ不二(せんじゅはなまちよりちょうぼうのふじ)
  16. 武陽佃島(ぶようつくだじま)
  17. 上総ノ海路(かずさのかいろ)
  18. 登戸浦(のぼとのうら)
  19. 常州牛堀(じょうしゅううしぼり)
  20. 東海道品川御殿山ノ不二(とうかいどうしながわごてんやまのふじ)
  21. 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)
  22. 武州玉川(ぶしゅうたまがわ)
  23. 東海道程ヶ谷(とうかいどうほどがや)
  24. 相州七里浜(そうしゅうしちりがはま)
  25. 相州江の島(そうしゅうえのしま)
  26. 相州仲原(そうしゅうなかはら)
  27. 相州梅沢左(そうしゅううめざわひだり)
  28. 相州箱根湖水(そうしゅうはこねこすい)
  29. 甲州三島越(こうしゅうみしまごえ)
  30. 駿州片倉茶園ノ不二(すんしゅうかたくらちゃえんのふじ)
  31. 駿州大野新田(すんしゅうおおのしんでん)
  32. 山下白雨(さんかはくう)
  33. 凱風快晴(がいふうかいせい)
  34. 諸人登山(しょにんとざん)
  35. 駿州江尻(すんしゅうえじり)
  36. 東海道江尻田子の浦略図(とうかいどうえじりたごのうらりゃくず)
  37. 東海道金谷ノ不二(とうかいどうかなやのふじ)
  38. 遠江山中(とおとうみさんちゅう)
  39. 東海道吉田(とうかいどうよしだ)
  40. 尾州不二見原(びしゅうふじみがはら)
  41. 甲州犬目峠(こうしゅういぬめとうげ)
  42. 甲州三坂水面(こうしゅうみさかすいめん)
  43. 甲州伊沢暁(こうしゅういさわのあかつき)
  44. 信州諏訪湖(しんしゅうすわこ)
  45. 甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)
  46. 身延川裏不二(みのぶがわうらふじ)

1. 江戸日本橋(えどにほんばし)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと中央区ちゅうおうく日本橋にほんばし。日本橋にほんばしから西方せいほうを望のぞむ構図こうず。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 江戸日本橋

橋はしを埋うめる人々ひとびとのにぎわいを手前てまえに大おおきく置おき、その奥おくに江戸城えどじょう、さらに遠とおくに富士ふじを重かさねています。近景きんけいの雑踏ざっとうと、遠景えんけいの静しずかな富士ふじとの対比たいひが印象的いんしょうてきです。

2. 江都駿河町三井見世略図(えどするがちょうみついみせりゃくず)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと中央区ちゅうおうく日本橋室町にほんばしむろまち。三井越後屋みついえちごや(現在げんざいの三越みつこし周辺しゅうへん)。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図

左右さゆうの大おおきな屋根やねが遠近法えんきんほうによって富士ふじへ向むかって収束しゅうそくします。屋根職人やねしょくにんや空そらの凧たこを加くわえることで、江戸えどの商業地しょうぎょうちの日常にちじょうの中なかに富士ふじを組くみ込こんでいます。

3. 東都駿台(とうとするがだい)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと千代田区ちよだく神田駿河台かんだするがだい周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東都駿台

坂道さかみちを行いき交かう武士ぶし、町人ちょうにん、物売ものうりなどを細こまかく描えがき、にぎやかな江戸えどの町まちの向むこうに富士ふじを見みせています。人々ひとびとの動うごきと遠とおくの山やまの静しずけさが対照的たいしょうてきです。

4. 東都浅草本願寺(とうとあさくさほんがんじ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと台東区たいとうく西浅草にしあさくさ。現在げんざいの東本願寺ひがしほんがんじ付近ふきん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東都浅草本願寺

巨大きょだいな本堂ほんどうの屋根やねを画面がめんいっぱいに取とり、その三角形さんかくけいと遠とおくの富士ふじの形かたちを響ひびき合あわせています。原題げんだいでは「浅艸あさくさ」と記しるされる作例さくれいがあります。

5. 本所立川(ほんじょたてかわ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと墨田区すみだく立川たてかわ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 本所立川

材木置場ざいもくおきばで働はたらく人々ひとびとを描えがいた一図いちずです。縦横じゅうおうに組くまれた材木ざいもくの間あいだから小ちいさな富士ふじが見みえ、働はたらく人ひとの動作どうさと幾何学的きかがくてきな構図こうずが組くみ合あわされています。

6. 深川万年橋下(ふかがわまんねんばしした)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと江東区こうとうくの萬年橋まんねんばし周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 深川万年橋下

大おおきく弧こを描えがく橋はしを画面上部がめんじょうぶに置おき、その下したに遠とおくの富士ふじをのぞかせています。橋はしの曲線きょくせんと富士ふじの三角形さんかくけいが対照たいしょうをつくる、北斎ほくさいらしい大胆だいたんな構図こうずです。

7. 五百らかん寺さざゐどう(ごひゃくらかんじさざいどう)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと江東区こうとうく大島おおじま付近ふきんにあった五百羅漢寺ごひゃくらかんじ。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 五百らかん寺さざゐどう

高たかい三匝堂(さざえ堂)の欄干らんかんから、人々ひとびとが遠とおくの富士ふじを眺ながめています。建物たてものそのものを大おおきく描えがくのではなく、高所こうしょからの眺望ちょうぼうを主役しゅやくにした作品さくひんです。

8. 青山円座松(あおやまえんざまつ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと渋谷区しぶやく神宮前じんぐうまえ、龍巌寺りゅうがんじ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 青山円座松

円座松えんざまつと呼よばれた大おおきな松まつを丸まるく広ひろがる形かたちで描えがき、その向むこうに富士ふじを置おいています。松まつの丸まるみと富士ふじの三角形さんかくけいを比くらべるような構成こうせいです。

9. 隠田の水車(おんでんのすいしゃ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと渋谷区しぶやく神宮前じんぐうまえ周辺しゅうへん。江戸時代えどじだいの穏田村おんでんむら。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 隠田の水車

水車すいしゃの大おおきな輪わを中心ちゅうしんに、米こめを運はこぶ人ひと、洗あらい物ものをする人ひとなど農村のうそんの日常にちじょうを描えがいています。作品名さくひんめいは資料しりょうによって「穏田乃水車おんでんのすいしゃ」「隠田おんでんの水車すいしゃ」などの表記ひょうきがあります。

10. 下目黒(しもめぐろ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと目黒区めぐろく下目黒しもめぐろ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 下目黒

田畑たはたと坂道さかみちの広ひろがる郊外こうがいの風景ふうけいです。農作業のうさぎょうをする人々ひとびとを近ちかくに描えがき、起伏きふくのある土地とちの向むこうから富士ふじが姿すがたを見みせています。

11. 礫川雪ノ旦(こいしかわゆきのあした)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと文京区ぶんきょうく小石川こいしかわ付近ふきん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦

雪ゆきの降ふった翌朝よくあさ、見晴みはららしのよい場所ばしょから富士ふじを眺ながめる人々ひとびとを描えがいています。「旦あした」は朝あさの意味いみで、シリーズでは珍めずらしい雪景色ゆきげしきです。

12. 御厩川岸より両国橋夕陽見(おんまやがしよりりょうごくばしゆうひみ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと台東区たいとうく蔵前くらまえ付近ふきんの旧御厩川岸きゅうおんまやがしから隅田川すみだがわを望のぞむ景観けいかん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見

夕暮ゆうぐれの隅田川すみだがわを渡わたる舟ふねの向むこうに両国橋りょうごくばしと富士ふじを重かさねています。読よみは「せきようをみる」とする資料しりょうもあり、読よみ方かたには揺ゆれがあります。

13. 隅田川関屋の里(すみだがわせきやのさと)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと足立区あだちく千住関屋町せんじゅせきやちょう周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 隅田川関屋の里

隅田川すみだがわ沿ぞいを馬うまで駆かける人々ひとびとの勢いきおいを、斜ななめに流ながれる構図こうずで表あらわしています。遠とおくの富士ふじは小ちいさいながら、画面がめん全体ぜんたいの進行方向しんこうほうこうを受うけ止とめる位置いちに置おかれています。

14. 武州千住(ぶしゅうせんじゅ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと足立区あだちく千住せんじゅ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 武州千住

用水ようすいや水門すいもんのような構造物こうぞうぶつを手前てまえに置おき、その向むこうに富士ふじを見みせています。釣つり人ひとや馬うまを引ひく人ひとを加くわえ、千住せんじゅ近郊きんこうののどかな生活風景せいかつふうけいにしています。

15. 従千住花街眺望ノ不二(せんじゅはなまちよりちょうぼうのふじ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと足立区あだちく千住せんじゅ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二

千住せんじゅの町外まちはずれから遠とおくの富士ふじを望のぞむ作品さくひんです。行列ぎょうれつと道端みちばたの人々ひとびとを対照的たいしょうてきに描えがき、街道かいどうを行いき交かう人ひとの動うごきの中なかに富士ふじを置おいています。

16. 武陽佃島(ぶようつくだじま)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと中央区ちゅうおうく佃つくだ。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 武陽佃島

佃島つくだじまを囲かこむ水面すいめんと数多かずおおくの舟ふねを藍色あいいろを基調きちょうに描えがいています。水平すいへいに広ひろがる水辺みずべの風景ふうけいの奥おくに富士ふじが立たち、江戸湾えどわんの広ひろがりを感かんじさせます。

17. 上総ノ海路(かずさのかいろ)

現在地げんざいちの目安めやす:千葉県ちばけん木更津きさらづ沖おきなど、上総側かずさがわの江戸湾えどわん(東京湾とうきょうわん)と考かんがえられる海域かいいき。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 上総ノ海路

大おおきな帆船はんせんの帆ほと帆柱ほばしらを画面がめんいっぱいに描えがき、その向むこうに富士ふじを置おいています。巨大きょだいな船具せんぐと小ちいさな富士ふじの組くみ合あわせによって、海上かいじょうの距離感きょりかんを強つよく見みせています。

18. 登戸浦(のぼとのうら)

現在地げんざいちの目安めやす:千葉県ちばけん千葉市ちばし中央区ちゅうおうく登戸のぶと周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 登戸浦

浅瀬あさせの鳥居とりいを大おおきく描えがき、その内側うちがわに富士ふじを収おさめています。潮干狩しおひがりをする人々ひとびとも描えがかれ、海辺うみべの行楽ぎょうらくと信仰しんこうの景観けいかんが一ひとつの画面がめんにまとめられています。

19. 常州牛堀(じょうしゅううしぼり)

現在地げんざいちの目安めやす:茨城県いばらきけん潮来市いたこし牛堀うしぼり周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 常州牛堀

水辺みずべに浮うかぶ舟ふねと、その中なかで作業さぎょうする人ひとを静しずかに描えがいた作品さくひんです。朝あさもやのような空気くうきの向むこうに富士ふじが見みえ、広ひろい水面すいめんの静しずけさが際きわ立たちます。

20. 東海道品川御殿山ノ不二(とうかいどうしながわごてんやまのふじ)

現在地げんざいちの目安めやす:東京都とうきょうと品川区しながわく北品川きたしながわ、御殿山ごてんやま周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二

桜さくらの名所めいしょだった御殿山ごてんやまで、花見はなみを楽たのしむ人々ひとびとと富士ふじを描えがいています。枝えだの間あいだから富士ふじが見みえるよう構成こうせいされ、春はるのにぎわいと遠景えんけいが一体いったいになっています。

21. 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川宿かながわしゅく沖おきを示しめす題名だいめいですが、具体的ぐたいてきな視点位置してんいちには諸説しょせつがあります。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏

巨大きょだいな波なみ、押送船おしおくりぶね、遠とおくの富士ふじを一ひとつの瞬間しゅんかんにまとめた代表作だいひょうさくです。激はげしく動うごく波なみと動うごかない富士ふじ、極端きょくたんな近景きんけいと遠景えんけいをぶつけることで強つよい緊張感きんちょうかんを生うみ出でしています。

22. 武州玉川(ぶしゅうたまがわ)

現在地げんざいちの目安めやす:武蔵国むさしのくにを流ながれる多摩川たまがわ。具体的ぐたいてきな地点ちてんは特定とくていしにくい作品さくひんです。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 武州玉川

広ひろい川面かわもと対岸たいがんの緑みどり、その向むこうの富士ふじをすっきりと配置はいちしています。人物じんぶつや舟ふねを小ちいさく抑おさえることで、多摩川たまがわの広ひろがりと富士ふじまでの距離きょりを感かんじさせます。

23. 東海道程ヶ谷(とうかいどうほどがや)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん横浜市よこはまし保土ケ谷区ほどがやく、旧きゅう程ヶ谷宿ほどがやしゅく周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷

東海道とうかいどうを旅たびする人々ひとびとと松並木まつなみきを描えがいています。曲まがりくねった松まつの枝えだの間あいだから富士ふじが見みえ、街道かいどうの一場面いちばめんを切きり取とったような構図こうずです。

24. 相州七里浜(そうしゅうしちりがはま)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん鎌倉市かまくらし七里ヶ浜しちりがはま周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 相州七里浜

七里ヶ浜しちりがはまから江えの島しまと富士ふじを望のぞむ景観けいかんを、藍あいを中心ちゅうしんとした静しずかな色調しきちょうで描えがいています。海岸かいがんから遠景えんけいへ段階的だんかいてきに視線しせんが伸のびていく構成こうせいです。

25. 相州江の島(そうしゅうえのしま)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん藤沢市ふじさわし片瀬かたせから江えの島しま周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 相州江の島

干潮時かんちょうじに現あらわれる砂州さすを渡わたって江えの島しまへ向むかう人々ひとびとを描えがいています。江えの島しま、その背後はいごの富士ふじ、浜辺はまべの人々ひとびとが奥行おくゆきをつくり、参詣地さんけいちのにぎわいを伝つたえます。

26. 相州仲原(そうしゅうなかはら)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん平塚市ひらつかし中原なかはら周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 相州仲原

大山おおやまを手前てまえに、さらに遠とおくへ富士ふじを置おき、道みちを行いく人ひとや農作業のうさぎょうをする人々ひとびとを描えがいています。相模さがみの暮くらしと旅たびの風景ふうけいが一枚いちまいの中なかに同居どうきょしています。

27. 相州梅沢左(そうしゅううめざわひだり)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん中郡なかぐん二宮町にのみやまち梅沢うめざわ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 相州梅沢左

水辺みずべの鶴つると富士ふじを組くみ合あわせた静しずかな一図いちずです。「梅沢左うめざわのひだり」の「左ひだり」は「在ざい」または「庄しょう」の誤刻ごこくではないかという説せつがあり、題名だいめいそのものに研究上けんきゅうじょうの問題もんだいが残のこっています。

28. 相州箱根湖水(そうしゅうはこねこすい)

現在地げんざいちの目安めやす:神奈川県かながわけん足柄下郡あしがらしもぐん箱根町はこねまち、芦あしノ湖こ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 相州箱根湖水

波なみのない芦あしノ湖こと周囲しゅういの山々やまやま、その奥おくの富士ふじを描えがいた静しずかな風景ふうけいです。人物じんぶつをほとんど見みせず、湖みずうみ・山やま・霞かすみの形かたちを簡潔かんけつに組くみ合あわせています。

29. 甲州三島越(こうしゅうみしまごえ)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん南都留郡みなみつるぐん山中湖村やまなかこむらから籠坂峠かごさかとうげ周辺しゅうへんと考かんがえられます。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 甲州三島越

画面がめんを貫つらぬく巨木きょぼくと、その後うしろの大おおきな富士ふじを対比たいひさせています。旅人たびびとたちが手てをつないで幹みきの太ふとさを測はかろうとする姿すがたが、木きの巨大きょだいさを分わかりやすく伝つたえます。

30. 駿州片倉茶園ノ不二(すんしゅうかたくらちゃえんのふじ)

現在地げんざいちの目安めやす:駿河国するがのくにの茶園ちゃえんを描えがいた作品さくひんですが、現在地げんざいちの特定とくていには諸説しょせつがあります。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二

茶摘ちゃつみや茶葉ちゃばを運はこぶ人々ひとびとを前景ぜんけいに描えがき、その向むこうに富士ふじを置おいています。富士山ふじさんだけでなく、駿河するがの産業さんぎょうと人々ひとびとの仕事しごとも主役しゅやくになっています。

31. 駿州大野新田(すんしゅうおおのしんでん)

現在地げんざいちの目安めやす:静岡県しずおかけん富士市ふじし大野新田おおのしんでん周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 駿州大野新田

葦あしなどを積つんだ牛うしを引ひく人々ひとびとが列れつをつくり、その奥おくに富士ふじが見みえます。繰くり返かえされる人ひとと牛うしの形かたちがリズムを生うみ、早朝そうちょうの農村風景のうそんふうけいを印象いんしょうづけています。

32. 山下白雨(さんかはくう)

現在地げんざいちの目安めやす:富士山ふじさんそのものを主題しゅだいとした作品さくひんで、特定とくていの観察地点かんさつちてんには断定だんていできません。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 山下白雨

山頂付近さんちょうふきんは明あかるいままなのに、山麓さんろくには黒くろい雷雲らいうんが広ひろがり、稲妻いなずまが走はしっています。「白雨はくう」は夕立ゆうだちのような急きゅうな雨あめを指さし、山やまの上下じょうげで天候てんこうが違ちがう瞬間しゅんかんを描えがいています。

33. 凱風快晴(がいふうかいせい)

現在地げんざいちの目安めやす:富士山ふじさんそのものを主題しゅだいとした作品さくひん。眺望地点ちょうぼうちてんには諸説しょせつがあります。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 凱風快晴

通称つうしょう「赤富士あかふじ」。朝あさの光ひかりを受うけて赤あかく見みえる富士ふじを大おおきく描えがき、空そらと山やまだけで成立せいりつする簡潔かんけつな構図こうずにしています。「凱風がいふう」は穏おだやかな南風みなみかぜを意味いみします。

34. 諸人登山(しょにんとざん)

現在地げんざいちの目安めやす:富士山中ふじさんちゅう。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 諸人登山

シリーズで唯一ゆいいつ、富士ふじの山容さんようそのものではなく、山やまを登のぼる人々ひとびとを中心ちゅうしんに描えがいた作品さくひんです。険けわしい岩場いわばや石室いしむろに集あつまる登山者とざんしゃを通とおして、富士信仰ふじしんこうと登山とざんの厳きびしさを伝つたえています。

35. 駿州江尻(すんしゅうえじり)

現在地げんざいちの目安めやす:静岡県しずおかけん静岡市しずおかし清水区しみずく江尻えじり周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 駿州江尻

突然とつぜんの強風きょうふうにあおられ、紙かみや笠かさが空そらへ舞まい上あがる瞬間しゅんかんを描えがいています。人々ひとびとは必死ひっしに風かぜに耐たえる一方いっぽう、遠とおくの富士ふじは動うごかず、自然しぜんの動どうと静せいが鮮あざやかに対比たいひされています。

36. 東海道江尻田子の浦略図(とうかいどうえじりたごのうらりゃくず)

現在地げんざいちの目安めやす:静岡県しずおかけん静岡市しずおかし清水区しみずくから田子たごの浦方面うらほうめんを題材だいざいとした景観けいかん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東海道江尻田子の浦略図

荒あい波なみを進すすむ舟ふねと、海岸かいがんで働はたらく人々ひとびと、その背後はいごに裾野すそのを大おおきく広ひろげる富士ふじを描えがいています。「略図りゃくず」とある通とおり、実景じっけいを写真的しゃしんてきに再現さいげんしたものとは限かぎりません。

37. 東海道金谷ノ不二(とうかいどうかなやのふじ)

現在地げんざいちの目安めやす:静岡県しずおかけん島田市しまだし金谷かなや周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東海道金谷ノ不二

大井川おおいがわを渡わたる人々ひとびとを画面がめんいっぱいに描えがき、その向むこうに富士ふじを見みせています。旅人たびびとを肩かたや蓮台れんだいに乗のせて川かわを渡わたす様子ようすから、橋はしのなかった大井川越おおいがわごえの苦労くろうが伝つたわります。

38. 遠江山中(とおとうみさんちゅう)

現在地げんざいちの目安めやす:遠江国とおとうみのくに、現在げんざいの静岡県しずおかけん西部せいぶ。具体的ぐたいてきな地点ちてんは特定とくていされていません。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 遠江山中

大おおきな角材かくざいを斜ななめに置おき、その上下じょうげで木挽こびき職人しょくにんが働はたらく姿すがたを描えがいています。材木ざいもくや支柱しちゅうがつくる直線ちょくせんと、遠とおくの富士ふじの三角形さんかくけいを組くみ合あわせた構図こうずです。

39. 東海道吉田(とうかいどうよしだ)

現在地げんざいちの目安めやす:愛知県あいちけん豊橋市とよはしし、旧きゅう吉田宿よしだしゅく周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 東海道吉田

富士ふじが見みえる茶屋ちゃやの室内しつないから外そとを眺ながめる構図こうずです。旅人たびびとや働はたらく人々ひとびとを室内しつないに配置はいちし、額縁がくぶちのような柱はしらと窓まどの向むこうに富士ふじを見みせています。

40. 尾州不二見原(びしゅうふじみがはら)

現在地げんざいちの目安めやす:愛知県あいちけん名古屋市なごやし中区なかく富士見町ふじみちょう周辺しゅうへんとされます。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 尾州不二見原

大おおきな桶おけの輪わの内側うちがわに富士ふじを収おさめた、シリーズ屈指くっしの幾何学的きかがくてきな構図こうずです。円形えんけいの桶おけ、三角形さんかくけいの富士ふじ、四角しかくい材木ざいもくや地面じめんが組くみ合あわされています。

41. 甲州犬目峠(こうしゅういぬめとうげ)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん上野原市うえのはらし犬目いぬめ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 甲州犬目峠

甲州街道こうしゅうかいどうの峠道とうげみちを進すすむ旅人たびびとと、広ひろく開ひらけた空そらの向むこうの富士ふじを描えがいています。低ひくい丘おかと大おおきな空そらが、旅たびの途中とちゅうで突然とつぜん現あらわれる眺望ちょうぼうの広ひろがりを感かんじさせます。

42. 甲州三坂水面(こうしゅうみさかすいめん)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん南都留郡みなみつるぐん富士河口湖町ふじかわぐちこまち、河口湖かわぐちこ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 甲州三坂水面

湖面こめんに映うつる富士ふじと実際じっさいの富士ふじを上下じょうげに並ならべていますが、山頂さんちょうの雪ゆきの有無うむが一致いっちしません。単純たんじゅんな鏡像きょうぞうではなく、北斎ほくさいが意図的いとてきに二ふたつの富士ふじを描えがき分わけたように見みえる不思議ふしぎな作品さくひんです。

43. 甲州伊沢暁(こうしゅういさわのあかつき)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん笛吹市ふえふきし石和町いさわちょう周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 甲州伊沢暁

夜明よあけ前後ぜんごの宿場町しゅくばまちで、旅たび立たつ人々ひとびとや馬うまを描えがいています。空そらが明あかるくなり始はじめる中なか、富士ふじはまだ落おち着ついた色いろで描えがかれ、早朝そうちょうの静しずかな時間じかんを表あらわしています。

44. 信州諏訪湖(しんしゅうすわこ)

現在地げんざいちの目安めやす:長野県ながのけん諏訪湖すわこ周辺しゅうへん。北岸側ほくがんがわからの眺ながめとされます。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 信州諏訪湖

湖みずうみ、岬みさき、松まつ、遠とおくの富士ふじを重かさね、深ふかい奥行おくゆきをつくっています。画面がめん中央ちゅうおうの松まつが視線しせんをいったん受うけ止とめ、その向むこうへ富士ふじを見みる構成こうせいです。

45. 甲州石班沢(こうしゅうかじかざわ)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん南巨摩郡みなみこまぐん富士川町ふじかわちょう鰍沢かじかざわ周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 甲州石班沢

岩場いわばで投網とあみを扱あつかう漁師りょうしと、荒あれる富士川ふじかわを描えがいています。漁師りょうしの体からだ、網あみ、岩いわの輪郭りんかくが富士ふじの三角形さんかくけいと呼応こおうし、青あおを中心ちゅうしんとした緊張感きんちょうかんのある画面がめんになっています。

46. 身延川裏不二(みのぶがわうらふじ)

現在地げんざいちの目安めやす:山梨県やまなしけん南巨摩郡みなみこまぐん身延町みのぶちょう、富士川ふじかわ・身延山みのぶさん周辺しゅうへん。

葛飾北斎 冨嶽三十六景 身延川裏不二

山梨側やまなしがわから見みた富士ふじを、険けわしい山やまと急流きゅうりゅうの奥おくに描えがいています。前景ぜんけいの山やまや川かわを大おおきく扱あつかい、遠とおくにのぞく富士ふじまで幾重いくえにも空間くうかんが重かさなる構図こうずです。

『冨嶽三十六景ふがくさんじゅうろっけい』を見みるときのポイント

46図ずを続つづけて見みると、北斎ほくさいが富士ふじそのものの形かたちだけを描えがこうとしたのではないことがよく分わかります。橋はし、屋根やね、桶おけ、帆ほ、材木ざいもく、水車すいしゃなどを大おおきく手前てまえに置おき、その隙間すきまや奥おくに富士ふじを見みせる作品さくひんが多おおく、丸まる・三角さんかく・四角しかく・直線ちょくせん・曲線きょくせんを組くみ合あわせるように画面がめんが組くみ立たてられています。

もう一ひとつの見みどころは、人々ひとびとの暮くらしです。旅人たびびと、漁師りょうし、農民のうみん、職人しょくにん、船頭せんどう、参詣者さんけいしゃなどが各地かくちで働はたらき、歩あるき、休やすみ、富士ふじを眺ながめています。世界的せかいてきに有名ゆうめいな「神奈川沖浪裏かながわおきなみうら」や「凱風快晴がいふうかいせい」だけでなく、46図ずを通とおして見みることで、富士ふじとともに生いきた江戸時代えどじだいの人々ひとびとの姿すがたまで見みえてくるシリーズです。