葛飾北斎の『絵本隅田川両岸一覧』は、隅田川の両岸に広がる江戸の名所と人々の暮らしを、春から冬へと移る四季の中でつないだ彩色摺の狂歌絵本です。三冊の見開きは前後の景色がつながるように描かれ、順番に並べると、一本の長い絵巻物のように眺めることができます。
高輪から川をさかのぼり、築地、柳橋、両国、浅草、向島、今戸、橋場、真崎、山谷を経て吉原へと進みます。川辺で遊ぶ人、舟を操る人、行き交う人々とともに、朝夕や天候、季節まで少しずつ変化していくところが、この作品の大きな見どころです。
『絵本隅田川両岸一覧』とは
『絵本隅田川両岸一覧』は、普通の名所絵のように一つの場所を一枚ずつ独立して描いたものではありません。見開きの左右だけでなく、次の見開きへも風景が続きます。そのため三冊を通して見ると、隅田川を舟や道からゆっくり移動しているような感覚になります。
手前の西岸には行楽や生活を楽しむ人々が多く描かれ、向こう岸には穏やかな景色が広がります。江戸の町のにぎわいと、川や空の広がりを同時に見せることで、当時の隅田川がどのような場所だったのかを伝えています。
基本情報
【画】葛飾北斎
【書名】『絵本隅田川両岸一覧』(Sumidagawa Ryogan Ichiran)
【種類】彩色摺絵入狂歌本
【版元】鶴屋喜右衛門
【制作年代】19世紀初頭・文化期ごろ(刊年には資料による違いがあります)
【形態】大本三冊
【寸法】27.1×18.4cm
序文には壺十楼成安の名が確認できます。画面上部の狂歌は複数の狂歌師によるもの。
【画像引用】国立国会図書館
葛飾北斎 画『隅田川両岸一覧』,刊. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2533332 (参照 2026-08-12)
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』上,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183339 (参照 2026-08-12)
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』中,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183342 (参照 2026-08-12)
高輪から吉原へ、四季とともに進む隅田川
最初は高輪の新春から始まり、川をさかのぼるにつれて季節も進んでいきます。両国の納涼、夕立や虹、秋の月や紅葉を経て、最後は吉原の年の暮れへと至ります。場所を移動するだけでなく、一年そのものを旅するように組み立てられているのが面白いところ。
『絵本隅田川両岸一覧』画像一覧
- 表紙ひょうし
- 高輪の暁鳥 不峯の積雪
- 旭元船乗初 房総春暁
- 佃住吉恵方 筑地の凧
- 三俣の白魚 永代春風
- 市中の花 新寺の新樹
- 大橋の網引 元柳橋の子規
- 御船蔵の 広小路の群集
- [御船蔵の 広小路の群集]其二
- 両国納涼 一の橋弁天
- [両国納涼]無縁の日中
- 両国納涼(一の橋弁天・無縁の日中)連続画像
- 新柳橋の白雨 御竹蔵の虹
- 首尾松の鉤舟 椎木の夕蝉
- 榧寺の高灯篭 御馬屋川岸乗合
- 駒形の夕日栄 多田薬師の行雁
- 大川橋の月 小梅の泊舩
- [大川橋の月]其二
- 浅草寺の入相
- 向島の時雨 花川戸の参篭
- 待乳山の紅葉
- 白髭の翟松 今戸の夕烟
- 橋場の田家 隅田の都鳥
- 真嵜の神燈 木母寺の鉦鼓
- 三谷の田家
- 吉原の終年
- 裏表紙
表紙ひょうし
高輪の暁鳥 不峯の積雪
旭元船乗初 房総春暁
佃住吉恵方 筑地の凧
三俣の白魚 永代春風
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』上,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183339 (参照 2026-08-12)
市中の花 新寺の新樹
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』上,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183339 (参照 2026-08-12)
大橋の網引 元柳橋の子規
御船蔵の 広小路の群集
[御船蔵の 広小路の群集]其二
両国納涼 一の橋弁天
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』中,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183342 (参照 2026-08-12)
[両国納涼]無縁の日中
北斎 画 ほか『絵本隅田川両岸一覧』中,風俗絵巻図画刊行会[ほか],大正6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183342 (参照 2026-08-12)
両国納涼(一の橋弁天・無縁の日中)連続画像
新柳橋の白雨 御竹蔵の虹
首尾松の鉤舟 椎木の夕蝉
榧寺の高灯篭 御馬屋川岸乗合
駒形の夕日栄 多田薬師の行雁
大川橋の月 小梅の泊舩
[大川橋の月]其二
浅草寺の入相
向島の時雨 花川戸の参篭
待乳山の紅葉
白髭の翟松 今戸の夕烟
橋場の田家 隅田の都鳥
真嵜の神燈 木母寺の鉦鼓
三谷の田家
吉原の終年
裏表紙

見どころ
一枚ずつ見ても美しい絵ですが、この作品は前後の画像を続けて見ることで印象が大きく変わります。川岸、建物、舟、空などが次の画面へ自然につながり、ページをめくるたびに視点が少しずつ上流へ移っていきます。
北斎は後年の『冨嶽三十六景』でも、名所そのものだけでなく、そこで働き、遊び、旅をする人々を画面に取り込みました。『絵本隅田川両岸一覧』では、その魅力を一本の川と一年の季節の流れの中で味わうことができます。
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