(古書・書籍) 北斎[葛飾北斎 画[他]の文字起こし、1926年、大正15年最後に芸術家、版画家の織田一磨が出版した「北斎」、北斎に傾倒していた織田一磨は浮世絵の研究に関する本をいくつも出版している。
旧文字や今話使わない言い回しはできるだけ現代の言葉に変更しています。
【タイトル】 北斎
【著者】 織田一磨
【シリーズ名】アルス美術叢書 第15編
【出版者】アルス
【出版】 大正15
【序】
【目次】
【 別刷挿絵目次 】
【 序 】
浮世絵の名匠(めいしょう)葛飾北斎の傅記として、世に著名な文献は、飯島半十郎氏の葛飾北斎傅二巻である、しかるにこの書も誤伝(ごでん)多くいま俄に信を置き難いものである、このほか浮世絵類考の類本も同様信頼するに足りないものである。
今、彼の評伝(ひょうでん)を草するからに当って、はなはだ取捨選択に迷った、北斎没して78年最早正確な実績(じっせき)として信拠(しんきょ※信ずべき根拠)する可き何ものも無い、ただ遺るものは彼の作品だけである。
画号変遷史すら非常な難物とされている、まして彼の官能生活に就ては、僅少の記録すら見当たらない、正しい考証などは到底望み得らる可くも思えない、然に画(畫)家の傅記には官能生活が何物にもかへられない生命である。
北斎の画論及び其の思想に就ては、彼の自著を漁って比較的的確の批判を下す事が出来た、これはせめてもの幸せである。
官能生活に関しては最も考慮を費して成る可く正しいものを編みたいと望んだのであるが、前述の次第でやむを得ず勝手な憶測を混じ、これに適度な粉飾を施して、創作的に辻褄の合うようにした、同じ画(畫)道を歩む自己の生活に比較し、更に北斎の周囲と時代思潮(しちょう)を参酌(さんしゃく)して、彼の作品及び思想との関連を計って、滋に一貫した彼の生活相を現してみた、この態度から言うと本書はまさに稗史憶説(はいし※民間の歴史書。転じて、作り物語)の類に属する。
真(眞)行草三體(体)画論は北斎の常に好む所であった、本書もまた三様の態度を打って一丸として成つたものである、すなわち北斎の作品及び画法については割合に、厳密の考証をとけて可成真実の記述をなし、伝記逸話に関しては抽象的に要領のみを挙げ、官能生活に就いては全く小説的に創作しものである。
本書を閲覧する諸賢は、その辺充分に斟酌(しんしやく※相手の事情・心情などをくみとること)して、錯綜(さくそう※物事が複雑に入り組んでいること)混乱しないように切望する。
挿絵選定に就ては画風変遷を尋ねるに便宜(べんぎ※つごうのよいこと)よく選出掲載頽した、挿絵を一覧すれば北斎の成長衰頽(すいたい※おとろえ) が概略(がいりゃく※細部を略したあらまし)偲(しぬ)び得るように心掛けた結果、所謂(いわゆる)名物ものである彼の、富獄三十六景を重しとする普通観照(かんしょう※対象の美を直接的に感じ取ること)者の態度とは自ら見解を異にするものとなった。
終りに望み、浮世絵の研究家、伊藤成治氏、及び畏友(いゆう※尊敬する友)井上和雄氏等の好意に依つて其秘蔵品を撮影するの便宜(びんぎ※よい機会)を興へられ、ために代表的作品を掲載するの光栄に浴した事をここに記して深く感謝の意を表す。
大正15年 四月十八日
北斎六十八回正忌
東都(とうと※江戸または東京)において
目次
1.序説 (浮世絵と遊蕩生活)
2.北斎の幼時とその時代の浮世絵
3.天明時代の画風と黄表紙の挿絵
4.天明時代とその生活
5.天明時代の浮世
6.寛政時代と北斎の生活
7.寛政時代の狂歌本挿絵
8.北斎の西洋画風
9.寛政時代の絵巻
10.享和時代と北斎の忠臣蔵
11. 文化時代の画風
12. 文化時代の活躍
13. 文化時代読本挿の絵
14. 文化時代の絵本
15. 文化時代北斎漫画
16. 文政時代の生活
17. 富獄三十六景とそのほかの画集
18. 文政時代の絵本類
19. 天保時代と北斎の思想
20. 天保時代の作品
21. 弘化嘉永の作風と北斎の態度
22. 結論
付録、雅号一覧表
【 別刷挿絵目次 】
口絵 一 九段牛ヶ淵之景 (錦繪) ほくさい (寛政
口絵 二 風流無くて七くせ (同) 可候 (同)
第 1図 江戸見坂夜雨 (錦繪) 春朗 (天明?)
第 2図 我家樂之鎌倉山 (黄表紙挿繪) 群馬亭 (天明)
第 3図 東叡山中堂之圖 (浮繪) 春朗 (同)
第 4図 江戸兩國橋夕凉花火之圖 (同) 同 (同)
第 5図 東都歌舞伎大芝居之圖 (同) 同 (同)
第 6図 貧福道中記 (黄表紙挿繪) 同 (寛政)
第 7図 福壽海無量品玉 (同) 同 (同)
第 8図 初日出 (摺物) 宗理 (寛政)
第 9図 月の玉川 (同) 同 (同)
第 10図 東都勝景一覽「隅田川 」 (狂歌本挿繪) 辰政 (同)
第 11図 東都勝景一覽「品川」 (同) 同 (同)
第 12図 東海道「興津」 (錦繪) 畫狂人北齋 (同)
第 13図 潮來絶句「水邊娼家」 (狂歌本挿繪) (享和)
第 14図 潮來絶句「お茶」 (同) (同)
第 15図 東海道「平塚」 (錦繪) (享和)
第 16図 忠臣藏二段目 (浮繪) 可候 (享和)
第 17図 忠臣藏三段目 (同) 同 (同)
第 18図 東嫩錦「平太と丹次」 (讀本挿繪) 北齋 (文化)
第 19図 怪談霜夜之星「おさはの幽靈」(同) 同 (同)
第 20図 隅田川兩岸一覽「櫻」 (狂歌本挿繪) 同 (同)
第 21図 阿波之鳴戸「貞婦をせむる」 (讀本挿繪) 北齋 (文化)
第 22図 北越奇談「小蛇登天」 (挿繪) 同 (同)
第 23図 北越奇談「幽靈船」 (同) 同 (同)
第 24図 後日文章「雷雨」 (讀本挿繪) 同 (同)
第 25図 畧畫早指南 (繪本) 同 (同)
第 26図 皿皿郷談「べに皿」 (讀本挿繪) 同 (同)
第 27図 寫眞畫譜「おしどり」 (繪本) (同)
第 28図 北齋漫畫「四編鳥類」 (同) 戴斗 (同)
第 29図 北齋漫畫「八編葛飾振」 (同) 同 (同)
第 30図 北齋漫畫「九編雷電」 (同) 同 (同)
第 31図 不忍池 (浮繪) 北齋 (同)
第 32図 兩國橋夕凉夜見世之圖 (同) 同 (同)
第 33図 八ッ山花盛群集之圖 (同) 同 (同)
第 34図 忠臣藏三段目 (錦繪) (文化)
第 35図 美人讀書 (摺物) 不染居爲一 (同)
第 36図 三體畫譜「あやめ」 (繪本) 北齋 (同)
第 37図 踊獨稽古 (同) かつしかおやぢ (同)
第 38図 隅田川花火 (錦繪) 畫狂人 (同)
第 39図 忠臣藏七段目 (同) 北齋 (同)
第 40図 浄瑠璃絶句 (繪本) 同 (同)
第 41図 大原女 (摺物) 同 (同)
第 42図 鯉魚 (錦繪) 戴斗 (同)
第 43図 北齋漫畫「十編手品」 (繪本) (文政)
第 44図 凱風快晴(三十六景の内) (錦繪) 前北齋爲一 (同)
第 45図 兩國夕照(三十六景の内) (同) 同 (同)
第 46図 吉野馬洗瀧(瀧めぐりの内) (同) 同 (同)
第 47図 養老之瀧(瀧めぐりの内) (錦繪) 前北齋爲一 (文化)
第 48図 天滿橋(名橋奇覽の内) (同) 同 (同)
第 49図 長虹秋霽(琉球八景の内) (同) 同 (同)
第 40図 北齋漫畫「十二編」 (繪本) 同 (天保)
第 51図 兩國(乳母繪解の内) (錦繪) 前北齋卍 (同)
第 52図 淀川の月(雪月花の内) (同) 前北齋爲一 (同)
第 53図 詩歌寫眞鏡 (同) 同 (同)
第 54図 あやめ草と虫 (同) 同 (同)
第 55図 鶴 (同) 同 (同)
第 56図 新雛形「鐘樓」 (繪本) (同)
第 57図 唐詩選七言律 (同) 畫狂老人卍翁 (同)
第 58図 忠經 (同) 前北齋爲一老人 (同)
第 59図 富嶽百景「竹林」 (同) 畫狂老人卍 (同)
第 50図 和漢譽 (繪本) 畫狂老人卍 (天保)
第 61図 釋迦一代記 (挿繪) 前北齋卍老人 (同)
第 62図 草筆畫譜 (繪本) 前北齋卍翁 (同)
第 63図 彩色通 (同) 畫狂老人卍 (弘化)
第 64図 義烈百人一首 (挿繪) 前北齋卍老人 (嘉永)